坐禅について



 永平寺や總持寺などの修行道場を訪ねると、目を奪われるのは修行中の雲水たちの背すじの伸びた姿勢の美しさです。
 それにひきかえ、私たちの姿勢はどうでしょう。背を丸め、肩をすぼめて歩く人の何と多いこと。小学生から高齢者まで1,704名の姿勢を調査された医学博士・丹羽昇先生もこうおっしゃいます 。「姿勢が完全によいと思われる人は一人もいませんでした。特に、筋肉の未発達な小・中学生と筋力の衰えた老人に不良姿勢が多く、それぞれ40.7%、47.7%、58.3%にものぼっています」
 1,704名のうち、約半数の人に姿勢矯正の必要が認められたということです。「姿勢の悪い人ほど病気や不定愁訴が多かったですね。例えば円背(=猫背)では、腹筋が弱るため内臓が下垂し、血液循環も悪くなります。また、浅い胸式呼吸がふえるため呼吸の効率も低下します。浅い呼吸は、精神面にもよくありません。常にせかせかした気持ちになってしまいます。姿勢をよくして深い腹式呼吸をすれば、副交感神経が働いて気持ちを落ち着かせてくれるんです」と、丹羽先生。身心の健康は、よい姿勢から生まれるというわけです。
 「日頃から、息を深く吸い、背すじを伸ばして左右対称な姿勢をとる努力をしましょう。ただし、身体を緊張させてはいけません。頭のてっぺんを上から糸で軽く引っ張られているつもりで身体の力を抜き、楽に伸びた姿勢がよい姿勢です」
 丹羽先生の提唱する”よい姿勢”は、実はそのまま坐禅の姿勢にあてはまります。「正身端坐/しょうしんたんざ」と、道元禅師はおっしゃいました。それは、現代の医学の目で見ても、理想的な姿勢と言えるのです。
 雲水たちの美しい姿勢が思い出されます。私たちも日常生活に坐禅を生かし、身体と心を調えてはどうでしょうか。
腰を立て、身体を上に持ち上げるようにして背すじを伸ばす 全身のいきみを抜いても腰にきまりがあるため姿勢は崩れない


 椅子坐禅のすすめ

 坐禅の姿勢を身につけるには、坐禅堂で指導者のもとに行うのが望ましいのですが、日常の椅子での生活でも、姿勢を正し気持ちを落ち着ければ、坐禅の心は変わりません。できるだけ固い椅子を選び、後ろにもたれない程度に深く坐ってみてください。日常生活が、坐禅になります。
  • 足:両足はやや手前に引き、足の裏を床に着けてきちんと揃えます。
  • 上体:腰を立て、背骨をまっすぐにします。あごを引き、身体をいったん上に持ち上げ、息を抜きながら全身の力を抜きます。
  • 口:舌先を上あごの歯のつけ根に軽く当て、唇を結びます。
  • 目:目はつむらないで、視線を斜めに、約1メートル前方に落ち着けます。
  • 手:法界定印/ほっかいじょういん。下腹の前に右手を置き、左手を重ね、両手の親指の先を軽く合わせます。親指が離れたり、力が込もらないよう気をつけます。
 坐禅の姿勢ができたら、下腹で大きく息を吐き、吸います(欠気一息/かんきいっそく)。その後、左右に二、三度身体を揺らし(左右揺振/さゆうようしん)、姿勢を調えます(調身/ちょうしん)。呼吸を整え(調息/ちょうそく)、坐禅の姿勢を保つよう心を調えます(調心/ちょうしん)。

 「横坐りや足を組んで腰かけるなど、日常の何気ない動作が身体を歪め、姿勢を悪くします」と、丹羽先生。こういう姿勢をしていることに気づいたら、息を大きく吸って下腹に力を込め、身体を起こしてみてください。背すじが伸びた状態では、足を組んだり横に流したりできないはずです。
 横坐りや足組み姿勢が私達の背骨を歪めています。足を崩すのは楽なように感じられますが、長い目で見れば身体にとって本当に楽な姿勢ではありません。常に背骨をまっすぐに保つ努力を忘れたくはないものです。
背を伸ばし足を揃えた正坐も身体への負担が少ない。 足を組むと背中が曲がる。日常の悪い姿勢。 横坐りは脊柱の湾曲の原因に


 合掌

 厳しい修行の結果、坐禅中には精神の安定を示すα波がきれいに表れることが平井富雄先生(東京大学医学部付属病院分院神経科医長)の研究によって明らかにされました。「身の威儀/いいぎを改むれば、心も随って転ずるなり」『正法眼蔵随聞記/しょうぼうげんぞうずいもんき』中の道元禅師のお言葉に科学的裏付けが与えられたわけです。
 修行道場で守られている形には、もうひとつ合掌礼拝があります。仏様に向かう時、廊下で人とすれ違う時、食事の時、就寝の時・・・。やはり手を合わすという形を調えることが心を調えることになります。敬う心、謙虚な心、感謝の心。禅から学びたい形のひとつです。
■掌をぴったりと合わせ、肘を張って指先を鼻の頭とほぼ同じ高さにするのが正しい合掌の形。心をこめて。


曹洞宗宗務庁 発行
「禅の風 第7号」参照

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